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【準決勝レポート/デンソー vs. 富士通】敗北を最高のときへ

2021年12月19日

リーグ戦であれ、トーナメント形式であれ、コートに立つ者は誰一人として「負けてもいい」とは思っていない。すべからく勝つ。そう思っているはずだ。しかし一方で、勝負の世界には勝つ者がいれば、負ける者もいる。

今シーズンのWリーグでいまだ負けなしのデンソーアイリスと富士通レッドウェーブ。その両チームが「第88回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会(以下、皇后杯)」のファイナルラウンド準決勝で対戦することとなった。試合開始から約1時間半後には――実際にこの試合は1時間半ちょうどで終わっている――どちらか一方が連勝記録を伸ばし、他方が今シーズン初敗北を喫することになる。
結果は70-53。デンソーが得点の前者となり、富士通が後者となった。

試合を振り返れば、敗れた者は当然、敗戦の弁を述べていく。自分たちの何が悪くて、相手のどこを攻略できなかったのか。そして最後は決まって、再開するWリーグに向けて立て直していくと誓うのだが、富士通のそれには、これまでとどこか違う雰囲気が漂っていたように思う。
記者からの「反省点は多いと思うが、あえて今後につながるポジティブな点を挙げるとすれば、どこになりますか?」と質問があったときだ。
向上心の塊ともいうべき#10町田瑠唯は、これまでこうしたポジティブな点を発することが、あまり多くなかった。なかったわけではない。ただ、あったとしても、どこか反省が色濃くにじみ出ることのほうが多かった。この日も答えに窮している様子で、記者会見に同席していた#52宮澤夕貴に先を譲っている。

その宮澤は過去8年間、皇后杯ではまったく負けていないのだが、富士通に移籍して1年目の今年、久々に苦杯をなめることになった。しかし彼女はきっぱりとこう答えている。
「課題はたくさん残りましたが、でもそれは今後どうしていくのかが明確になったことでもあります。それをやっていかなければいけません。(たとえば)3ポイントシュートは打てていたけど、これからは決めきることをもっと意識しなければいけないし、富士通は波があるので、それもなくしていかなければいけません」
3ポイントシュートと波についてはもちろん反省の内容なのだが、そうした課題が明確になったことこそがプラス材料だと発言できる選手が加わったことは、富士通にとって大きなプラス材料だろう。

その言葉を受けた町田も、少し悩みながら、こう引き取った。
「今日の試合はマイナスの点が多いけど、今までの富士通は今日のような試合になったときに、ベンチも静かだし、コート内でもなかなかコミュニケーションが取れていないことがありました。今日の試合は負けましたが、最後までベンチも声を出していましたし、コート内でもコミュニケーションを取っていて、励ますというか、『大丈夫、大丈夫。まだいける』といった会話があったので、そこは今までの富士通とは違いましたし、よかったところかなと思います」
町田がチームの変化、成長をハッキリと口にするようになったこともまた、富士通としては大きな進歩だろう。負けはしたけれども、単に負けて悔しいだけで終わらない、間違いない光明がこの試合にはあったというわけである。

些細なことかもしれない。しかしそのわずかな成長が今後のチームを劇的に変化させる一石になることもあるだろう。

英語に“There is no time like the present.”という言葉がある。直訳すれば「今のような時間はない」だが、意訳すれば「今が最高のときである」となる。敗北はけっして「最高のとき」ではない。むしろ「最悪のとき」かもしれない。しかし己の弱さを知り、それを克服するために動き出そうと思えば、敗北をした「今こそが最高のとき」である。

富士通にとって、皇后杯で喫した今シーズン初の敗北が、今シーズン最後の敗北になるかもしれない。

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