【決勝レポート/ ENEOS vs. デンソー】結束したハードワークが生んだ前人未踏
2021年12月20日
やはり数字はウソをつかないということだろうか――
「第88回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会(以下、皇后杯)」のファイナルラウンド・決勝戦はENEOSサンフラワーズがデンソーアイリスを86-62で破って、大会史上最多となる9連覇を達成した。
両チームはこの試合が始まるまで、皇后杯の決勝戦で5度対戦している。決勝戦以外でも、デンソーの#8髙田真希がチームに加入していて以来、4度対戦している。その9試合すべてで、ENEOSが勝っている。勝率100%である。
Wリーグまでその枠を広げても、同じく髙田がデンソーに加入した2008-2009シーズン以降、プレーオフも含めて45回対戦し、ENEOSの43勝2敗。勝率は当然下がるが、それでも96%である。
むろん、過去の数字が今大会の結果に、直接的に反映されるはずもない。勝率はあくまでも過去の数字である。特にデンソーは昨シーズンからマリーナ・マルコヴィッチヘッドコーチ体制となり、誰か一人に――端的に言えば、髙田だけに頼ることなく、チームで戦うことをこれまで以上に強調してきた。今大会でも準々決勝、準決勝とそれが結果に現れてきていただけに、今回こそ、その数字を少し自分たちのほうに引き寄せようと、より意気込んでいた。
それがまたも跳ね返されたのである。
なぜか――。
ひとつはチームとして戦おうとしているデンソーに対して、ENEOSもまたチームで戦ったからだ。ENEOSはどうしても#10渡嘉敷来夢の存在が際立つが、東京2020オリンピックの女子日本代表でもある#7林咲希と#32宮崎早織もいる。その宮崎は準決勝、決勝と苦しんでいたが、それをカバーした#21高田静と、決勝戦で13得点・19リバウンドの活躍を見せた#24梅沢カディシャ樹奈は、渡嘉敷同様にヒザのケガから復帰し、その存在感を放っている。彼女たちの成長が、数名の移籍選手を出しながらも、皇后杯を制したチームの底上げにつながっている。
渡嘉敷もそれを認める。
「オリンピックに出場した2人はメンタルが強くなりました。それは間違いなくチームにとってプラスです。私と岡本の2人でチームのメンタルコントロールをするのは難しいけど、2人が私たちと一緒にそれをできていることは今のチームの強みです。高田と梅沢については、一緒にリハビリを頑張ってきたから他の選手よりも思うところはありますよね。2人は私よりも先に手術をして、先に復帰をしています。そんな彼女たちの頑張りを見て、私も頑張らなければいけないと思ったし、ケガは一人では乗り越えられないので、2人には支えられました。しかもこの決勝戦で2人のたくましい姿を見られたので、ホッとしているし、私もまだまだ負けていられないなと」
今はまだチーム作りの過程にあるが、その芽は少しずつ、しかし着実に出てきている。
それだけではない。
デンソーの髙田や#88赤穂ひまわりが言うとおり、ENEOSは「大事な試合の勝ち方を知っている」。それは他ならぬENEOSの佐藤清美ヘッドコーチも認めるところだが、それとは異なることがあるとキャプテンの#7林咲希は言う。
「タクさん(渡嘉敷)とレアさん(岡本)がチームを引っ張ってくれることで、私たちもエネルギッシュに頑張れるし、そうした中心選手はいますが、周りの選手も彼女たちと同じレベルで戦えるよう、一生懸命に自主練習をしています。それを一人ひとりが試合で思い切って出せていることが、決勝戦のようなゲームでも勝ちきれているところかなと思います」
ハードワークである。どのチームもやっているだろうハードワークを、彼女たちもまたおこなっているからこそ、経験に裏打ちされた「勝ち方」を発揮できるのである。
現在、男子バスケットボール日本代表のヘッドコーチを務めるトム・ホーバスがENEOSを率いている頃、彼は選手たちにこんな言葉を伝えていた。
Hard work beats talent, when talent fails to work hard――タレント(才能のある選手)が懸命に練習しないとき、ハードワークはタレント(才能)を打ち負かす。
タレント集団と言われるENEOSだが、それだけにハードワークを忘れてはいけないよ。それを忘れたら、簡単に足下をすくわれてしまうよ。彼はそう伝えていたのである。
彼がチームを離れて5年も経とうとしているが、その精神だけはいまだに息づいている。
どのチームもENEOSを倒そうとチームバスケットを構築し、ハードワークをしている。
しかしENEOSもまた同じくらいチームバスケットを構築し、ハードワークをしている。
前人未踏の皇后杯9連覇の陰には、これまでの勝率にあぐらをかくことなく、より結束したチーム力と、それを高めようとした個々のハードワークがあったことを、現地レポートの最後に、改めて記しておきたい。